ホタルの移植と生息地管理手法〜米沢市小野川の事例

 

蔦 幹夫(山形県米沢市)

 

はじめに

米沢ホタル愛護会は、身近な自然のシンボルのホタルの自然生息地の保全・再生を行い、ホタルだけでなく地域固有の多くの生き物が生息する地域づくりを目的にしている。すなわち、ホタルだけがいる自然でなく、ホタルもいる自然としての生態系を守る活動を行い、ホタルの里づくりとして、発生数を競うことでなく、ホタルが自然生息する住み良い地域自然づくりをめざしている。ここではその米沢市付近のホタル生息地における事例を報告する。

 

1、     ホタルの移植に際しての助言の事例

ゲンジボタルは明滅の間隔から2秒型の西日本型と4秒型の東日本型の生態型があり、また多くの遺伝子集団に分かれていることも知られている鈴木浩文・砂糖安志・大場信義 2000ゲンジボタルが生態的・遺伝子的に分化している中、人為的な移植によりこれらの遺伝集団の分布状態を攪乱する可能性がある。例えば、東京都の多摩地区に本来生息しない西日本型のゲンジボタルの定着が確認されている鈴木浩文 2001

米沢市では郊外にゲンジボタル・ヘイケボタルは普通に生息している。近隣のN市が環境教育の一環として、北海道の飼育業者のヘイケボタルを市内の小学校に寄贈し、飼育したヘイケボタル幼虫を学校周辺に放流する計画があった。この小学校から米沢ホタル愛護会にこの件に関する協力要請があった。その際、ゲンジボタルを例にその生態や遺伝集団の地理的な違いを話し、地域の固有のホタルを守ることの大切さを説いた。その結果、北海道産ヘイケボタルは学校内のビオトープにとどめ、野外に飛び出さないようにした。今後は他地区からホタルを持ち込まなず、地域内のホタルを守る活動を行うことになった。

 

2、  簗沢・新田集落のゲンジボタル生息水路の事例

 米沢ホタル愛護会は、ホタルの幼虫やカワニナを放流することなく、生息水路の水管理・草刈・泥上げでの生息地の維持管理を奨励している。米沢市小野川温泉から2キロ離れたところに簗沢・新田集落の農業用水路がある。この水路は素掘りで、西側に丘があり、約50メートル区間に一晩に約100匹のゲンジボタルの飛翔が確認され、米沢でも最も発生数の密度が高い水路である。この水路を管理する水田耕作者は草刈や泥上げを丹念に行っている。田植え前の5月上旬の徹底的な泥上げによりカワニナやホタルの幼虫も一緒に泥上げされるが、7月にはカワニナの稚貝が大量に見られ、ゲンジボタルも毎年安定して発生している。

 

3、       赤芝・馬場のゲンジボタル水路再生の事例

 小野川温泉から1キロ離れたところに赤芝・馬場に素掘りの農業用水路があり、東側の後背地は杉林である。1992年ごろまでゲンジボタルの生息地であった。しかし、水田が休耕となり、用水路が手入れされずに藪になり、水中に日差しは入らなくなり、泥だけの川底のカワニナは3センチ程度の大きい個体のみとなり、稚貝はいなくなり、ゲンジボタルは発生しなくなった。1998年、この水路が草刈・泥上げされ、以前の水路のようになった。同年5月、同水路500メートル下流からカワニナを移植し、7月に稚貝の発生を確認することができた。そこで、同所からゲンジボタルを採取し、産卵させ、孵化した幼虫を放流した。以後の追加移植は行わなかったが、翌年から、水管理・草刈・泥上げの作業のみで、約80メートル区間に毎年一晩に約50匹のゲンジボタルの飛翔が確認されている。但し、この水路の再生においては、ホタル等を人為的に移植せず、自らの移動での再生も可能であったと考えられる。

 

3、        小野川温泉ホタル公園の人工水路の事例

1988年に小野川温泉の河川敷跡にホタルの素掘り水路を300メートルが新設された。同年5月、小野川温泉街からカワニナを移植したところ、7月に稚貝の発生が確認できた。そこで、2キロ圏内から採取した成虫の卵から孵化したゲンジボタル幼虫を放流した。当初は近隣からの追加の幼虫移植も行ったが、ホタルの自然発生のメカニズムや地域の固有性の尊重から、1998年頃から移植は中止した。又、1995年に、水路の途中の池に小野川地内のヘイケボタルの成虫を約40匹移植した。この池に追加移植はしなかった。その後、ゲンジボタル・ヘイケボタルとも安定して自然発生している。この水路は水枯れしやすい取水構造であり、水の監視を頻繁にし、ホタル公園に隣接する耕作者からも水の情報を得ている。草刈は年4〜5回行っている。新設時、幼虫上陸後は草刈でさなぎを踏みつける可能性があり、草刈を行っていなかったが、雑草が成長する時期であり、孵化したばかりの幼虫の為にカワニナの稚貝を大量に発生させるため、幼虫上陸時も草刈をしている。そして、ホタルの成虫時期は水路内だけを草刈している。泥上げの折は、ホタルの幼虫やカワニナも泥と一緒に水路から上げられるが、泥が堆積する前に行っている。積雪より枯れ枝等が水路に落ち込み、泥がたまりやすくなったり、水草が発生しやすくなるが、雪融け後すぐに、水路の枯れ枝や葉っぱを草集め道具で取り、泥の堆積を事前に防いでいる。水路内のクレソン等の水草も繁茂を防ぐため、草集め道具で引き上げ事前に繁茂するのを防いでいる。

 

これらのホタル生息水路の管理に共通することは、ホタルだけを守る水路の管理でなく、農家が常日頃行う水路の管理であり、ホタルを象徴とする人と自然が共生する身近な自然の生態系を維持する作業と言える。

そして、米沢ホタル愛護会はホタルやカワニナなどの移植を極力行わないように助言している。ホタルが定着している所にはよそからのホタルやカワニナなどの追加移植を行わず、ホタル生息地を再生するためにホタルやカワニナなど移植する必要が場合、生息環境を十分に検討し、近隣から最小限の移植にするなど、移植によりホタル等の地域固有性が失われないように助言している。

 

引用文献

 

鈴木浩文・砂糖安志・大場信義 2000、ミトコンドリアDNAからみたゲンジボタル集団の遺伝的な変異と分化、全国ホタル研究会誌 33):30-34

 

鈴木浩文 2001ホタルの保護・復元における移植の三原則、全国ホタル研究会誌 34